やしきたかじんから学べ~北新地を制するものは関西を制す

 ポッドキャストを通じて、私は過去に放送されたラジオ番組の内容をiPodで聞くことがあります。九州にある放送局・RKB毎日放送の『中西一清 スタミナラジオ』は気に入っている番組の1つです。東京で暮らしている私にとって、九州の情報に接することができるのは貴重ですし、またローカルな放送局にも関わらず番組の主演者に全国的に有名な人が多くいて勉強になります。その『中西一清 スタミナラジオ』1月14日の回で、出演していたジャーナリストの勝谷誠彦さんが興味深い事を言っていました。勝谷誠彦さんが以前出演されていた『たかじんのそこまで言って委員会』(読売テレビ)の司会者で、1月3日に64歳で亡くられた歌手・タレントのやしきたかじんさんがその日の話のテーマでした。勝谷誠彦さんがやしきたかじんさんの功績を具体的に語っていた中で、やしきたかじんさんがクラブを何軒も回って豪遊していた有名な話を「あれは取材だったんですよ」「一番高い店には、日本で一番高い情報が集まってくる」「飲み代はテレビ局に持たせるのではなく、自分で払っていたからこそ、自分の情報にできた」などと評されていたことが、印象に残りました。多くのクラブの女性と飲みたい、大勢引き連れていく共演者やスタッフに自分の凄さを見せつけたいという動機だけではなく、夜の街で常に番組で使えるネタを探していたということです。夜の街に繰り出す効用。これがあったのです。勝谷誠彦さんは、斬新な切り口で、的確な表現をされます。そこで今日はやしきたかじんさんに触れながら、夜の街に繰り出す効用について考えてみたいです。「夜の街」とは距離の遠い人でも、今回の話から役に立つことを見出せます。

 夜の街で仕入れた話が、なぜテレビ番組に活きるのかと不思議に思われるかもしれません。やしきたかじんさんが司会をしていたのは、主に大人向けのバラエティ番組でした。とはいえ性的な内容ではなく、ある程度の社会的知識や芸能界の情報がないと楽しめない意味での大人向けのバラエティ番組です。そこでは、夜の街で仕入れた話が威力を発揮できました。

 私は1983年に京都で生まれ、京都で育った人間です。20代半ばまで関西圏にいましたので、やしきたかじんさんのテレビ番組を見ていました。知られているように、これらの番組は関西限定で放送されており、全国的な知名度はありませんでした。大人向けのバラエティ番組だったので、中学生ぐらいの時まではやしきたかじんさんの番組を面白いと思わなかったです。けれども、高校生や大学生になると、やしきたかじんさんの番組を好んで見るようになりました。当時は見る理由を考えたことはなかったですが、その番組を面白いと思わせる要因は今から考えると思い浮かびます。

 ここからは私が主に見ていた1990年代後半~2000年代のやしきたかじんさんのテレビ番組についての話をします。やしきたかじんさんが司会を務める番組は複数ありましたが、どれも共通点がいくつかありました。まず番組の形式は、やしきたかじんさんを他の出演者が取り囲むようにテーブルに座り、やしきたかじんさん本人は立って時の話題が載っているボードを介して話をして、時にはテーブルに座る他の出演者に話を振っていくというものです。手には指示棒を持ち、それでボードを叩きながら話を進めていった姿は印象的でした。ボードに載っている話題は、報道番組で扱われる硬派なものや、芸能界のものと、多岐に渡っていました。主演者は芸能人で占められるのですが、一流の仲間入りを目指す若手芸能人、爆発的な人気は現在ないが安定的に芸能界で仕事をし続けている中堅芸能人などが、多かったです。番組内では、外で撮った映像が使われることは、ほとんどありませんでした。つまり、始めから終わりまで、ボードの話題についてやしきたかじんさんと出演芸能人が話し合う映像だけで番組が作られていたのです。ラジオ番組に近いですね。全国放送されるバラエティ番組ではない作りで、独自性がありました。やしきたかじんさんのようなバラエティ番組を見ようと思ったら、やしきたかじんさんの番組を見るしかなかったのです。そして、その独自性を担保していたのが、やしきたかじんさんの司会として進行する力、そして本人自身の話力でした。

 やしきたかじんさんは、即座に笑いを取れる人ではありましたが、笑いだけで勝負してはいませんでした。東京で活躍する有名芸能人の裏話を多く持っていて、それを笑いにつなげていく方法を採っていました。これは彼しかやっていない芸でした。番組内でやしきたかじんさんがその芸能人の名前を出すたびに、その芸能人の名前が視聴者に分からないように、名前の音は別の音で遮られ、口元も画像で遮られていました。初めて聞く情報もありました。やしきたかじんさんが、週刊文春やフライデーといった週刊誌のような役割を果たしていたといえます。芸能界で笑いを即座にとれる人は多くいます。しかし同時に、情報通である人は少ないです。これを両方できたのが、やしきたかじんさんだったのです。これこそが、やしきたかじんさんの付加価値が高かった要因です。

 やしきたかじんさんの巧みな話術自体は、20代から続けてきた歌手活動と芸能活動で磨き上げられてきたことで、説明が済みます。一方、他の芸能人と差別化できた要素である情報通は、どこで磨き上げられたのでしょうか。高校生の頃から新聞記者を目指していたやしきたかじんさんは、元々情報に関しては敏感でした。実際、やしきたかじんさん本人もよく番組内で言っていましたが、家に何台もテレビを設置して、同時に複数のテレビ番組を視聴して研究していたのは有名な話です。ただそれだけでは、テレビをよく見ていて情報に詳しい人にしかなれません。自分しか知らない深い情報。やしきたかじんさんが生きる世界では、東京で活躍する有名芸能人の裏話や業界の裏話です。それを得られるのが、夜の街だったのです。

 北新地の夜を制するものが、関西を制する。この言葉は大袈裟ではありません。北新地とは大阪市内にある西日本で有数の夜の街です。東京でいえば銀座に値します。日本特有の交流文化なのか、日本の表と裏問わず各界の上層に位置する人間は、夜の街に繰り出します。本人の趣味による所ではなく、「俺は上層の人間だ」と他に知らしめる示威活動として、行われている側面もあります。「俺も会社の役員になって、会社の交際費が使えるようになったから、銀座でも通うか」といった具合ですかね。夜の街は、ステータスつまり高い社会的地位を感じさせてくれる要素を持つため、会社間の接待としても利用されます。接待される方は、銀座や北新地で接待されれば、嬉しいものです。夜の街で、接待する方も接待される方も、会社では上の地位の人間です。つまり夜の街にクラブの女性目当てに1人で来る人も、接待で来る人も、全員来る人は、社会的地位が高くお金持ちなのです。

 その客達が持っている情報も、当然高いものです。例えば、大手企業の社長なら、次期社長候補の名前といった人事情報や下請け会社の情報を持っています。例えば大手企業の社長が、夜の街で酔いの勢いでポロリと次期社長の名前を出してしまい、聞いていたホステスの知り合いが実はその社長の会社に勤める人間だったとしましょう。聞いたホステスは、いけないことですが、知り合いに出世をしてもらいたい為に「アナタの会社の次期社長は●●さんよ。この前アナタの会社の社長がポロリと言っていたわよ」と知り合いに告げたとします。それを聞いた知り合いは、会社内では誰も知らない、その次期社長が決まっている●●さんの「優秀な配下」に今すぐなれば、将来の出世の可能性が高まります。

 「一番高い店には、日本で一番高い情報が集まってくる」。先のラジオ番組で勝谷誠彦さんが言った言葉は、夜の街の特性を上手く言い表しています。銀座や北新地とは、「金になる情報の集積地」なのです。それでいて、酒と綺麗な女性という、男が緩む2大要素も備わっているのが銀座や北新地です。「情報の漏洩地」とも言えます。そして、その情報の経路つまりメッセンジャーとなるのが、夜の街で働く女性達です。彼女達に気に入られれば、「漏れ出てきた高い情報」を聞く機会が増えます。彼女達に気に入られる為には、どうするか。足繁く通うことであり、自腹でスマートに支払うことです。勝谷誠彦さんは初めにあげたラジオ番組内で「やしきたかじんさんは自腹で飲んでいた」と仰っていました。やしきたかじんさんはそれができていたので、東京で活躍する有名芸能人の裏話や業界の裏話を手にすることができたのです。やしきたかじんさんが北新地の夜を制していたことが、関西における彼の不動の人気を支えていたのです。

 ところで、そこから私たちは何を学べるかと言いますと、それは安い店ばかりに行ってはいけないということです。身近な例では、安さ自慢のファーストフードや喫茶店、居酒屋に行く回数を減らし、高めなファーストフードや喫茶店、居酒屋に行くようにすることです。安さ自慢のファーストフード店とコーヒー1杯600円近い喫茶店だと、隣席の人の会話が違ってきます。コーヒー1杯600円近い喫茶店の場合は、映画を観終わった後の30過ぎのカップルの会話だったり、業者と客による不動産契約の会話だったりと、ただ聞いているだけで人生勉強になります。

 もちろん毎回高い方を選んでいては、お金が持ちません。また高い店に行っても、外れが多いのも実際の所です。しかし、だからといって「高い店にも行くという機会」をみずから失してしまうのは、勿体ないです。時には、高い店に行って、情報収集してみてはいかがでしょうか。
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