中国版の人件費の抑え方

 「経済大国になった中国(中華人民共和国)が、これまでどのようにして発展してきたのか」について書いていきます。

 まず初めにですが、物を作り販売して、商売は成り立っています。当然、販売価格が、高いとあまり売れません。常に「他よりも安く」売ることが大切です。その販売価格は、「諸経費」(コスト)から構成されています。その諸経費の内訳は、「原材料費」「人件費」「輸送費」…など沢山あります。そして「安く売る」為には、「安く作る」ことが前提になります。「安く作る」のは、諸経費を削ることで可能となります。

 では今の日本で、一番「削りがいのある経費」はどれでしょうか?例えば自動車で言えば、原材料の鉄やゴムは世界の中で一番安い国から仕入れています。また輸送費なども、立派な道路が沢山ある日本では、安く済みそうです。そうなると、日本の自動車作りにおいて、諸経費のほとんどは十分削ってきたと考えられます。ただし唯一「削りがいのある経費」が残っています。それが「日本人の人件費」です。ご存知のように世界の国々に比べてみると、「日本人の人件費」は高いです。豊かになり技術が進めば、ほとんどの諸経費が安く済みます。

 一方、それとは反比例するように、豊かになればなるほど「その国の住む人の人件費」は高くなっていくのです。その分、諸経費が高くなり、結果的に「他よりも高く売る」ことになってしまいます。当然、世界市場の「他よりも安く売る」の戦いでは不利になるのです。よって豊かになった日本において、あらゆる会社(特に輸出企業)にとっての課題が、「削りがいのある経費」(=削る余地が残っている経費)である人件費を、どのように削るかということになります。そして上手く削れば、世界市場で物を「他より安く」売れることにつながります。

 ちなみに日本で行ったのが次の2点です。①正面突破で、安く人件費を抑える(ex,給与所得の減少、非正規雇用者の増加)、②発想の転換で、「外国の安い人件費」に頼る(ex工場を中国に移転する)。以上のことをして、つまり「削りがいのある経費」である人件費を抑えて、日本の会社は世界の国々で「日本製品を安く」売り続けることに今も可能となっている訳です。当たり前の話をしていますが、重要なのは「高くなっていく人件費をどう削るか」です。

 もちろん人件費が高くなれば、人々がその分お金を持つようになり、沢山消費するようになります。それはそれで経済が良くなります(つまり内需が生まれる)。しかし「お金のない国」の場合は、「人件費が高い=内需が盛り上がる」ということにはなりません。なぜなら「お金のない国」が、「豊かな国」になりたければ、「輸出で稼ぐ」しかないのです。「お金のない国」の中だけでは、「お金を沢山儲ける」ことは難しいのはお分かり頂けると思います(お金がないのですから)。

 例えば、中国は1990年代までは、貧しい国でした。ところが当時の最高実力者・鄧小平さんをはじめとして、市場経済を取り入れた改革をして、1990年代から今に至るまで中国は経済発展してきました。ざっくり言えば、1990年代から、急に「輸出ですっごく稼ぐ国」になったということです。「輸出で稼ぐ国」ということは、「中国製品が沢山売れた」ということです。そしてまた「中国製品が沢山売れた」ということは、「中国製品が世界の中で、一番安かった」ということでもあります。人は「一番安い商品」を購入するはずです。よって「中国が世界の中で一番安く物を作れた」ことが次に考えられます。

 さらに、経済発展していった1990年代において、中国はまだ今のような豊かな国ではありません。インフラも整っていないので、結構原材料費や輸送費などが高くつきそうです。よって、「人件費が物凄く安い」ことに、「世界の中で一番安く物を作れた」ことの要因を求められます。つまり、「中国では人件費が物凄く安い」→「中国は世界の中で一番安く物を作れた」→「中国製品が世界の中で、一番安かった」→「輸出ですっごく稼ぐ国になった」→「中国は経済大国になった」という流れが出来上がります。

*以下は『通貨燃ゆ―円・元・ドル・ユーロの同時代史―』(日経ビジネス人文庫 谷口智彦著)を参考にさせて、書かせて頂きました

 では源の「中国では人件費が物凄く安い」ことの内容を見てみましょう。現在の中国では「都市戸籍」と「農村戸籍」という、主に2つの戸籍があります。簡単な説明をしますと、「都市に生まれたなら、そのまま都市で生きる」という都市戸籍を持つ人と、「農村に生まれたなら、そのまま農村で生きる」という農村戸籍を持つ人がいるということです。自由気ままに都市戸籍を持つ人が、「農村で暮らす」ということは原則許されていないのです。日本は1つだけの戸籍で、自由に住む場所を変えられるのに比べたら、大違いですね。

 この「2つの戸籍」を利用することで、「中国では人件費が物凄く安い」ことを実現したのです。つまり「農村戸籍」の人を、“例外的に”都市で働かせることで、人件費を安く抑えているのです。例えば、中国内陸部の「農村戸籍」の青年達が、沿岸の福建省の都市の工場で「一定期間」出稼ぎにくるのです。「一定期間」ですので、「都市のマンションに定住する」のではなく、「都市の工場の寮で仮住まい」をします。当然中国内陸部の青年達の戸籍は「農村戸籍」のままです。そして「一定期間」が終わったら、稼いだお金を、持って中国内陸部の農村に「必ず戻る」ことになります。この流れの説明だけでは、人件費を安く抑えている説明が足らないと思います。日本を例にします。仮に、日本にも「都市戸籍」と「農村戸籍」が存在したとして下さい。「都市戸籍」は、大都市のある東京、神奈川、埼玉、大阪、愛知、福岡etcの住民と仮にします。「農村戸籍」は、「都市戸籍」以外の都道府県の住民と仮にします。そして例えば新潟の農村では、だいたいどんな仕事でも時給が500円とします。一方東京では、付加価値のある仕事が多いので、時給が1000円とします。なぜ新潟と東京で「500円も差があるんだ」と思われるかも知れません。

 しかし原則「農村戸籍の新潟」と「都市戸籍の東京」の間は、人の移動ができないという社会なのです。いくら新潟の人が「東京に住めば。時給1000円の仕事があるんだ。500円の仕事なんて。やってられないよ」と思っても、「東京に来てはダメ」ということになります。何か同じ国の中に、「2つの国」があるような感じです。そしてその状況下で、あえて“例外的に”「農村戸籍」の新潟の青年達が、東京に「一定期間」出稼ぎが許されました。そこで東京の工場長は、いくらの時給を新潟の青年達に提示すれば良いでしょうか。この場合、「時給600円」で、十分新潟の青年達ははりきって仕事してくれるでしょう。何せ、「新潟の500円より。100円も高い」からです。残念ながら新潟の青年達は、「都市戸籍」を持たないので、東京での定住をあきらめています。よって「東京での生活にとって必要な、時給1000円」は不要です。逆に「新潟での生活費にとって十分過ぎる、時給600円」は嬉しいのです。東京の工場長も「東京に住む、時給1000円を要求する青年」を雇用すれば経費が高くなりますが、時給600円で済む新潟青年達の存在は、大助かりです。これで東京の工場長は、物を「安く作れて」「安く売る」ことが可能となるのです。

 しかしこれが現在の実際の日本だとありえません。新潟からやってきた青年達は、当然都市の東京で定住します。よって「東京での生活にとって必要な、時給1000円」を求めるはずです。「時給600円じゃ。東京で暮らせません」と訴えるはずです。しかし中国の仕組みだと、可能になるのです。これが、中国の経済発展してきた源です。

 このように考えますと、やはり中国は「社会主義国」なんだと実感します。「2つの戸籍」の存在、そしてその「賃金差」を活かした出稼ぎの仕組みなどは、「自由に生きられない社会」(もちろん良い面もあります)という社会主義国の特徴をあらわしています。「自由に生きられる社会」(もちろん負の面もあります)という資本主義とはかけ離れています。よく中国は、資本主義を上手く積極的に取り入れたことで、経済発展できたという声があります。それは間違っていません。しかし私は、「内容は資本主義的」で、「方法は社会主義的」に、経済発展したのが今の中国であると考えます。
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